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佐藤歩 写真展 「東京愛♥論」

「東京愛 ♥ 論 ~ある男のふるさと創成の記録~」

私は、東京の街の中で、アイロンをかけることにした。
私はこうして、ふるさとをつくることにした。

♥ ♥ ♥

私の一週間はアイロンがけから始まります。
日曜日の晩、一週間分のシャツにアイロンをあてながら、新しい一週間について考えを巡らせます。シワシワのシャツがピシッと伸びるように、ぼんやりした未来の輪郭がはっきりしたものに変わっていきます。混沌が整頓される瞬間です。

私には、ふるさとがありませんでした。
自分の拠り所となる地がないことを、長いあいだ、憂えていました。転勤族の家庭に生まれ、小さい頃から父の仕事の都合であちらこちらを転々としました。新しい地に馴染む頃には、次の異動がありました。いつしか私は、心からその地に馴染むことを拒否するようになりました。そして、ふるさとは、空想上の桃源郷のようなものになっていったのです。

そこで私は、東京をふるさとにすることにしました。
それは私自身のためでもあり、新しい家族のためでもありました。いま暮らす街を好きになれば、それは自ずとふるさとになるはずです。心に、頭に、目に、胸に、その姿を焼き付けることにしました。観光客が多く集まるシンボリックな場所、東京オリンピックに向けて急激に変わりつつある場所、人々のささやかな暮らしが営まれる場所。手当たり次第の場所に足を運びました。

しかし、私の桃源郷への想いは、早々に挫かれることになりました。 ふるさとになるはずのこの街は、猥雑で混沌としていて、ちっとも美しくありません。率直なところ、桃源郷にはほど遠い代物でした。建物に統一感はなく、目障りな看板や耳障りな街宣が街にあふれていました。オリンピックを口実に、街は更新の真っ只中。まるで東京は、私のふるさとにされることから逃げているようでした。私は悲しみ、呆れ、そして途方に暮れました。

将来、ここに写っている風景は、かつてあったよきものとして懐かしがられ、一部はその時代の人たちの暮らしの中に溶け込み、残りの大部分は現代の愚行の証として語られることでしょう。それでも、私は東京をふるさとにすることにしたのです。

これは、私のふるさと創成の記録です。

会期 2017年7月11日(火)〜2017年7月17日(月)
時間 13:00~19:00
佐藤 歩

1974年6月生 東京都在住

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